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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

02 中巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页

青空文庫

十九

矢張自分が早く帰れるように手筈をして、今日明日にも診察が済んだら、どんな遅い夜汽車ででもその日のうちに立つ、と云うことにするより外はなかった。

やがて、彼女は、歌舞伎座の方から橋を渡って河岸通りを此方へ歩いて来る雪子の日傘が眼に留まると、徐かに座敷の中へ這入って、自分の顔色を見るために、次の間の鏡台の前に坐った。そして紅の刷毛を取って二三度頬の上を撫でたが、ふと心づいて、傍にあった化粧鞄を、悦子に聞かれないように金具の音を立てずに開けて、ポッケット用のブランデーの罎を出すと、それを蓋のコップの中に三分の一ほど滴らして飲んだ。

十九

幸子はもう展覧会へ行く興味などなくなっていたが、でもそんなものでも見たら気が紛れるであろうかと思って、午後から三人で上野へ出かけた。そして二つの展覧会を見るとくたくたに疲れてしまったが、悦子の懇望で動物園も見ることになり、くたびれた足を引き擦って簡略に一と廻りして、帰ったのは夕刻六時過ぎであった。実は何処かで晩の御飯をと云うつもりもあったが、それより早く宿でくつろぎたくなったので、雪子も連れて戻って来て、一と風呂浴びてから部屋で夕飯を食べていると、そこへ「只今帰りました」