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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
ほんとうに、たまには旅行もして見るものである。ほんの十日ばかり家を空けたに過ぎないけれども、旅馴れないせいか、何だか一と月も留守にしていたような気がして、久し振に我が家へ帰った喜びがしみじみと湧く。と、彼女は又しても、雪子が滞在中、ともすればさも懐しそうに、―――或は名残惜しそうに、―――この庭の彼方此方に彳むことがあるのを想い起した。こうして見ると、雪子ばかりではない。自分も矢張生粋の関西人であり、どんなに深く関西の風土に愛着しているかが分る。別に取り立てて風情もない詰まらないこの庭だけれども、此処に彳んで松の樹の多い空気の匂を嗅ぎ、六甲方面の山々を望み、澄んだ空を仰ぐだけでも、阪神間ほど住み心地のよい和やかな土地はないように感じる。それにしてもあのざわざわした、埃っぽい、白ッちゃけた東京と云う所は何と云う厭な都会であろう。東京と此方とでは風の肌触りからして違うと、雪子が口癖のように云うのも尤もである。ああ云う所に移転しないで済まされる自分は、姉や雪子に比べてどんなに幸福であるか知れない。―――幸子はその感想に浸ることがこの上もなく楽しいのであったが、