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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
どうも、今から考えると、自分も東京にいた間は悦子の神経衰弱が感染していたのかも知れない。実際東京のあの苛々した空気の中にいれば、自分のような者は神経が変にならずにはいない。矢張あの時心配したのは病的だったので、今の判断が正しいのではないであろうか。………
で、帰って来てから一週間ほど過ぎた或る日、彼女がその事を妙子に切り出す機会を捉えたのは、そんな風に大分気持が楽になっていた時であった。
その日妙子は割合に早く夙川から戻って、二階の自分の居間へ上って、今しがた仕事部屋から持って帰った、小紋の石持を着た年増の女の、庭下駄を穿いて石燈籠の下に蹲踞まっている人形―――それは「虫の音」という題で、女が虫の音に聴き入っている感じを出すのだと云って、かねてから苦心していた作であったが、―――を、卓の上に置いて見入っていたが、そこへ幸子は、
「まあ、よう出来てるわな。………」
と云いながら這入って行った。
「ええやろ、これ」
「ええわ、ほんまに。近頃の傑作やわ。………若い女にせんと、年増にしたのんが、ええ考やったわな、淋しい感じが出て。………」
そして彼女は、なお二つ三つ批評を加えて、ちょっと言葉を途切らしてから、