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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

02 中巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页

青空文庫

な約束を迫られていることが分った。―――まあそう云ったような訳なので、その約束をしてから以後、つまり今月の三日以来と云うもの、自分は一度も板倉に会っていないし、板倉も自分を訪ねて来ない、ただ、中姉ちゃんも帰りやはったのに、急にぱったり伺わないようになっても変だからと云って、先日挨拶に見えたのだけれども、それもわざと自分のいない時刻を選んで来たのである、と、そう妙子は云うのであった。

しかし、妙子の方はそれでよいとして、板倉は妙子をどう思っているのであろうか。奥畑が妙子を疑うのは謂われがないとしても、板倉を疑うのは無理のないところもある。奥畑に云わせると、妙子は何も板倉に助けて貰ったことを恩に着るには及ばない。なぜと云って、板倉の英雄的行動には最初から目的があったのだ。あの狡猾な男が、何か偉大なる報酬を予想することなしにああ云う危険を冒す筈がない。彼はあの朝早くから身支度をしてあの辺をウロウロしていたと云うが、左様に彼の行動は全く計画的だったのだ。そう云う身の程知らずの野望を抱くような男に、感謝する理由が何処にあろうか。第一彼自身、旧主の恋人を横取りしようなどと、忘恩のことを考えているではないか。