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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

02 中巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页

青空文庫

或る日のこと、境界の植込みの繁みの方で、

「エツコさん、御機嫌よう!」

と、ローゼマリーが日本語で云うと、

「アウフ、ウィーダアゼーエン!」

と、悦子が独逸語で云い、

「ハンブルクへ行ったらきっと手紙下さいね」

「エツコさんも手紙下さい!」

「ええ、上げます、きっと、きっと!………ペータアさんに何卒宜しく!」

「エツコさん、………」

「ルミーさん、フリッツさん、………」

と呼び合う声がしていたかと思うと、突然「ドイッチュラント、ユーベル、アルレス」の合唱が、ローゼマリーとフリッツの声で聞え始めた。幸子がテラスへ出て見ると、青桐の幹の程よい高さの所に姉娘と弟の幼童とが登って、枝の上に立ってハンカチを振っている下で、悦子がそれに答えながら、船出の光景を演じているのであった。

「まあ」

幸子も早速青桐の下へ駈けて行って、

「ルミーさん、フリッツさん、………」

と云いながら、埠頭に立った心持でハンカチを振った。

「エツコさんのママさん、アウフ、ウィーダアゼーエン!」

「アウフ、ウィーダアゼーエン! 御機嫌ようルミーさん、きっと又日本へいらっしゃいね」

「エツコさんのママさん、エツコさん、ハンブルクへ来て下さい」