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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
「ええ、行きますよ。………今に悦子が大きゅうなったらきっと行きますよ。ルミーさんも達者でいて下さい。………」
幸子はそう云っているうちに、子供相手の遊戯であると思いながらも眼頭が熱くなるのを覚えた。
シュトルツ夫人は子供の躾なども規則的でやかましく、ローゼマリーが悦子の家に遊びに来ていても、一定の時間になると必ず「ルミー」と云って垣根の向うから呼んだものであるが、この十日ばかりの間は、幼い同士が最後の名残を惜しむ気持に特別の心遣いをしているらしく、いつものように厳しくも云わなかったので、日が暮れると二人は又家の中で遊んだ。例の如く応接間に裸の人形を並べて、いろいろな衣裳を着せる。しまいには「鈴」を掴まえて来て、人形の代りにそれへ着せる。或る時は二人で代る代るピアノを弾いたが、
「エツコさん、何卒もう一つ下さい」
と、ローゼマリーはよくそう云った。それは「何卒もう一曲弾いて下さい」の意味なのであった。
夫人は夫シュトルツ氏の出発が慌しかったので、後の荷物の整理、家財道具の処分等、一切の残務を一人で片附けているらしく、毎日忙しそうに立ち働いているのが、幸子の家の二階からも窺われた。