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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
「ゲシュペンステル!」
貞之助は、何年か前に習ったそんな独逸語を覚えていたのが不思議だったので、つい大声を出して云った。
「お化けと云う独逸語はゲシュペンステル、………」
「ゲシュペンステル」
と、悦子は一遍云って見て、
「ルミーさん、これ、ゲシュペンステル、………」
「おお、わたしもゲシュペンステルになります。………」
それから一層騒々しくなって、
「お化けエ、………」
「ゲシュペンステル!」
と云い合いながら二階じゅうを駈け廻り、とうとう貞之助達夫婦の寝間へ、ローゼマリーが先に立って闖入して来た。見ると二人ともシーツを頭から被って、お化けの恰好をしているのであった。そして、「お化けエ」「ゲシュペンステル」と、げらげら笑いながら云いつづけて、寝床の周りを二三遍廻って又廊下へ出て行った。それから漸く、午前三時頃になって寝間に這入ったが、案の定二人ながら興奮し過ぎていつ迄も寝付かなかった。ローゼマリーは里心が付いたものか、私これからママさんの所へ帰ります、などとむずかり出したので、夫婦はそれを宥めるために代る代る起きて来たりして、やっと明け方に寝入らせることが出来た。