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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
弥生は御室の花ざかり
三味は太鼓ではやす幕の内
互に見合わす顔と顔
と云ったような文句で始まる「十日戎」の替え唄の舞を教わるのであったが、日の長い時分のことなので、悦子が済んで妙子が「雪」を舞う頃になっても、庭はまだ明るく、平戸の花の遅咲きの分がぱっと燃えるように芝生の青に照り映えていた。お隣のシュトルツ氏の子供たち、―――ローゼマリーとフリッツとは、近頃は殆ど毎日、悦子の帰りを待ち受けて此処の応接間で遊ぶようになっていたのが、さしあたり好い遊び場と遊び相手を奪われた形で、不思議そうにテラスの所から覗き込みながら、悦子たちの舞の手振を眺めていたが、しまいには兄のペータアまでが見物に来るようになった。或る日フリッツはとうとう稽古場へ上って来て、幸子たちがおさく師匠のことを「おッ師匠はん、おッ師匠はん」と呼ぶのを真似て、
「おッ師匠はん」
と呼んだので、おさく師匠は剽軽に、
「はあーい」
と、声を長く引っ張って返事をした。と、ローゼマリーも面白がって、
「おッ師匠はん」
と、呼んだ。
「はあーい」
「おッ師匠はん」
「はあーい」
おさく師匠は真顔になっていつ迄でも「はあーい」