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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
それともこれは妙子に限ったことなので、一つには平素の溌剌とした洋装に対照させる古典的服装のせいでもあるが、一つには彼女が舞の時に示す舞台度胸のせいでもあろうか。………
と、貞之助は、舞が終った途端に、慌ててライカを小脇に挟んで急ぎ足に廊下へ出て行く板倉を認めたが、彼の姿が扉の向うへ消えたのと間髪を入れずに、観客席の何処からか一人の紳士が非常な勢で走り出て、派手な外套の後影を追うように、その同じ扉に体でどんと突き当りつつ出て行ったのを見た。咄嗟の動作だったので、貞之助は呆気に取られたが、次の瞬間に、今の紳士が奥畑であったと心付くと、彼も直ぐあとから廊下へ出た。
「………何でこいさんの写真撮った。………撮らん云う約束したやないか。………」
奥畑は流石にあたりに気がねしながら、動もすると大声になりたがるのを自ら制するようにして詰っていた。板倉はむっと面を膨らしてはいるけれども、叱られていると云う恰好に、頸を垂れて大人しく聞いていた。
「そのキャメラ僕に貸せ。………」
そう云うと奥畑は、刑事が通行人を検べるように板倉の体を撫で廻して外套のボタンを外すと、上衣のポッケットへ手を挿し入れて、素早くライカを引っ張り出した。