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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
幸子は、少し話していると直きに蚊の鳴くような細さになるので、しゃべっている時間より「もしもし」と云っている時間の方が長いように感じられたが、漸くきれぎれに聴き取り得たところでは、今日の午後四時頃「板倉の妹でございます」と云って電話があり、板倉が耳の手術のために入院していたこと、経過は良かったのであるが、昨夜あたりから、容態が急変したことを知らせて来た、と云うのであった。急変と云うのは脳を侵されたのだろうか、と云うと、そうではないかと思ったけれど、脳はどうもない、脚だと云うのであると云う。脚がどうしたのかと云うと、どうなのかはっきり分らないが、えらい苦しみ方で、ちょっと触っても跳び上るように痛がり、痛い痛いと身をいて呻き続けているそうだと云う。それで、当人は痛い痛いを繰り返すばかりで、こいさんを呼んでくれとも何とも云っている訳ではないが、あの苦しみ方はただごとではないような気がする、恐らくもう耳鼻咽喉科の領分ではなくなっているらしいので、誰か外の先生に診て貰いたいのだけれども、自分の一存ではどうすることも出来ず、思案に余ってお電話致しましたと、そう妹は云うのであると云う。