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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
たのであった。それから昨日、三宮駅から病院へ直行した妙子が、夕方ちょっと戻って来て、一時間程して又出かけたが、その時の話だと、平素あれほど我慢強い、泣き言など洩らしたことのない板倉が、あんな意気地のない声を出して、「痛い痛い」と云い続ける様子は、見ても恐ろしいような気がすると云っていた。今朝も妙子が病室へ這入って行った時、妹が寝台の側へ寄って、「こいさんが帰って来やはりましたで」と云ったけれども、病人は苦しそうな眼を妙子の方へちらと向けて、ただ「痛い痛い」と云うばかり。それは痛みを怺えることに渾身の努力を要するので、他に注意を振り向ける余裕がないのであるらしかった。そんな風だから、夜昼打っ通しに呻るのみで、一睡もせず、食事も取らない。そのくせ、見たところでは脹れても膿んでもいないので、何処が痛むのか分らないのであるが、疾患部は左脚の膝の辺から爪先までであるらしく、寝返りを打っても、肌にそうっと触っても、大変な疼き方をするものと見え、そんな時には特別の叫び声を挙げる。雪子は、いったい何が原因でそうなったのか、耳の手術と脚の痛みとどう云う関係があるのかと聞いたが、それは妙子にもよく分っていなかった。