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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

02 中巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页

青空文庫

に可愛がられている山村流の舞い手であった。

「うち、裾曳いて舞うたことないよってに、よう舞うかどうか心配やねん。ちょっと彼方で裾のさばき方教せて貰うて来るわな」

妙子はそう云うと立って里勇のところへ行って、何かこそこそと耳打ちをして、

「わてかて頼りのうおまんねんで」

と、里勇が云っているのを、「ちょっと頼みます、ちょっと、………」と云いながら廊下の向うへ引っ張って行った。

階下ではもう地方が並んだと見えて、胡弓と三味線の調子を合わす音がきこえた。

妙子はそれから二十分ばかり里勇と二人襖を立てきって自分の居間に這入り込んでいたが、

「こいさん、旦那さんが早よしなさい云うてはりまっせ」

と、板倉が迎えに行った途端に、

「ふん、もうええねん」

と云いながら襖を開けた。そして、

「板倉さん、この裾持って来て、―――」

と、板倉に着物の裾を持たせながら階段を降りた。

貞之助も、幸子も、悦子も、妙子の後からぞろぞろ繋がって降りて行ったが、貞之助は舞が始まると、そうっと見物席の中へ這入って、一生懸命に舞台の妙子を見上げている独逸の少年の肩を叩いた。

「フリッツさん、あの人、誰か分りますか。