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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
「見んようにしてるねんけど、恐い思うたらつい見とうなって、ちらと見てしまうねん。―――板倉の心臓が、えらい凄さで波を打って、胸がぐうッと盛り上ったりぐうッと凹んだりしてたけど、全身麻酔云うたらあないなるもんか知らん。中姉ちゃんやったら、あれだけかて見てられへんわ」
「もうその話止め!」
「うち、それぐらいは平気やったけど、とうとうえらいもん見てしもうてん。―――」
「止め! 止めんかいな!」
「当分牛肉の鹿の子のとこ―――」
「止めえな、こいさん」
と、雪子が叱った。
「そう云えば、病名が分りましたで」
と、妙子は貞之助に云った。
「脱疽ですねんて。―――鈴木さん、磯貝医院にいてた間は云うてくれはれしませなんだけど、自分の病院へ連れて来てから、云うてくれはりましてん」
「ふうん、脱疽云うたら、そんなに痛いもんかいな。―――やっぱり耳を弄うたのが原因でそないなったんやろか」
「さあ、どうなのか、それは分りませんけど、―――」
この鈴木病院の院長と云うのも、余り同業者間の評判の芳しくない医師であったことが後に知れたのであるが、いったい、土地の一流の外科医が二人迄も絶望と認めて手術を拒否した病人を、成功は保証しないと云う条件附きで引き受けるなどと云うことは、考えて見れば少し変のようで、そこらあたりにこの院長の芳しくない所以があったの