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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

02 中巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页

青空文庫

貞之助が門を出ると、お春が又無謀にも追いかけて来たが、いや、今度こそお前は来てはならぬ、それより幸子と悦子だけでは家の方が心許ないから、しっかり留守番をするように頼むと、きびしく云い付けて追い返して、家から半丁ほど北のところで線路へ上った。と、それから数丁の間は全然水を見ず、纔かに森の辺から両側の田圃が、二三尺の深さで浸水している程度であった。森を出て田辺へかかると、水は却って線路の北側だけになり、南側は平日の通りであったが、本山駅へ近づくに従って次第に南側にも水を認めるに至った。でもまだ線路の上は安全で、貞之助は歩いて行くのに格別の危険も困難も感じなかったけれども、時々甲南高等学校の生徒が二三人ずつかたまって来るのに行き遇い、呼び止めて様子を聞くと、この辺は何でもありません、本山駅から先が本当に大変なのです、もう少し歩いていらっしゃれば向うが全部海のようになっているのが見えますと、誰も同じような答をする。野寄の、甲南女学校の西の方へ行きたいのですがと云うと、さあ、あの辺は恐らく一番ひどいのではないでしょうか、僕等が学校を出て来る時分にもまだ増水していましたから、今頃は線路の上も、西の方は埋没してしまったかも知れません、などと云う。