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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
反対に北側の方はいよいよ水が殖え、波が上りの線路を越えて、此方の線路へ打ち寄せつつあった。
「此方側は水が減ったぞ」
と、生徒の一人が叫んだ。
「あ、ほんとうだ。おい、これなら行けるぞ」
「甲南女学校まで行こうや」
生徒たちが真っ先に跳び出すと、大部分の人が鞄を提げたり風呂敷包を背負ったりして後に続いた。貞之助もその中の一人であったが、彼が夢中で土手の下へ駈け降りたのと同時に、非常な大波が北側から列車の方へ襲いかかった。水が凄じい音を立てて滝のように頭上へ崩れて来、材木が一本にゅっと横あいから突き出た。彼は辛うじて濁流から逃れて、水の干上った所へ来たが、いきなり脚が砂の中へずぶずぶと膝の上まで漬かった。ずぽッと脚を抜いた途端に片一方の靴が脱げた。ずぽッ、ずぽッ、と脚を抜きながら五六歩行くと、再び幅一間ばかりの激流があった。前を行く人が何度も流されそうになりつつ渡って行く。その流れの強いことは、さっき悦子を背負いながら渡った時の比ではない。中途で彼は、もう流される、もう駄目だと二三度観念した。漸く向う側へ着いたら、又砂の中へずぽッと腰の上まで漬かった。慌てて電信柱に抱き着いて這い上った。