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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
………ペータアさん」
と、幸子は、夫人の日本語ではまどろっこしいので、ペータアに云った。
「あなた、パパさんと何処でお遇いになりましたの」
「国道の徳井の近所です」
「まあ、神戸から徳井まで歩いておいでになりましたの」
「いいえ、違います。三宮から灘まで省線電車がありました」
「ああ、灘まで運転しているんですか」
「そうです。わたし、ルミーを連れて灘から徳井まで歩いて来たらパパに遇いました」
「それでもようパパさんにお遇いになりましたわねえ。徳井から此処までは何処を通って来ましたの」
「国道を通りました。しかしそうでない所も通りました。省線の線路の上や、それよりもっと山手の方や、道のない所や、………」
「それは大変でしたわねえ。まだ水の退かない所が沢山ありますの」
「沢山と違いますね、………少しだけ、………ところどころ、………」
ペータアの云うことも、問い詰めて行くと矢張たよりないところがあって、何処をどう云う風に通って来たのか、どの辺が水が退かないのか、途中の状況はどんな工合であったか、等々のことは余り判然としないのであるが、ローゼマリーのような幼い少女までが無事に歩いて来たのを見ても、又この三人の服装がそんなにひどく泥でよごれていないのを見ても、彼等が此処まで到達するのにそう甚しい危険や困難に遭遇したろうとは考えられない。