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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

「さっき姉ちゃんが来やはったけどな、たった今帰りはってん」

と、そう云ってちょっと間を置いてみたが、雪子が例の、

「ふん」

と云ったきりなので、仕方なしに後を続けた。

「あの話、あかなんでんわ」

「そうか」

「あのお母さん云う人なあ、………中風病みや云う話やってんけど、精神病らしいねんわ」

「そうか」

「それやったら、問題になれへんよってにな、………」

「ふん」

遠くで悦子の「ルミーさん、いらっしゃい」と云う声が聞えて、二人の少女が芝生の上を此方へ駈けて来るのを見ながら、幸子は調子を落して云った。

「ま、委しいことは後で云うけど、それだけ耳に入れとくわな」

「お帰り、姉ちゃん」

と、悦子がテラスを駈け上って、洋間の入口の硝子戸の外に立ち止ると、後から来たローゼマリーもその横に肩を揃えて立った。クリーム色の毛織のソックスを穿いた可愛らしい脚が四本列んだ。

「悦ちゃん、今日は中でお遊び、風が寒いよってに。―――」

と、雪子は立って行って、硝子戸を中から開けてやって、

「さあ、ルミーさんも這入って頂戴」

と、いつもと変りのない声で云った。

雪子の方はそんなことで済んでしまったが、貞之助の方はそう簡単には納まらなかった。