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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
01 上巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页
五
「いや、そうやないて。―――今度のんはあんまり急なこと云われたのんが気に入らんのんで、お腹の中は満更いややないらしいねん。味善う云うたら承知するやろと、あたしは見てる」
襖が開いて、雪子が廊下から這入って来たので、ひょっと聞かれたかも知れないと思いながら、幸子はそれきり口を噤んだ。
五
「中姉ちゃん、その帯締めて行くのん」
と、姉のうしろで妙子が帯を結んでやっているのを見ると、雪子は云った。
「その帯、―――あれ、いつやったか、この前ピアノの会の時にも締めて行ったやろ」
「ふん、締めて行った」
「あの時隣に腰掛けてたら、中姉ちゃんが息するとその袋帯がお腹のところでキュウ、キュウ、云うて鳴るねんが」
「そやったか知らん」
「それが、微かな音やねんけど、キュウ、キュウ、云うて、息する度に耳について難儀したことがあるねんわ、そんで、その帯、音楽会にはあかん思うたわ」
「そんなら、どれにしょう。―――」
そう云うと又箪笥の開きをあけて、幾つかの畳紙を引き出してはそこら辺へ一杯に並べて解き始めたが、
「これにしなさい」
と、妙子が観世水の模様のを選び出した。
「それ、似合うやろか」
「これでええ、これでええ。