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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

二十二

「そんで、云うことがいな、―――東京へ行く云う話が余り突然やったんで、この間じゅうは悲しいて悲しいて涙が出てしょうがなかったけど、もうちゃんと覚悟出来たよってに、どないもあらへん。こないなったら、一日も早う東京へ行って、親類の人等びっくりさしてやらんならん、やて」

「ほんに、そんなことを生きがいにしてる人やねんわ」

そう云って三人の妹たちは、ひとしきり姉を俎上に載せて笑い話をしたことであった。

二十二

辰雄は七月一日から丸の内の店に出勤するので、六月末に先に立って行って、当分麻布の親戚の家に寄食しながら、手頃な借家を自分でも捜し、人にも捜して貰っていたが、大森に一軒見付かったから大体それにきめたと云う手紙が来た。で、家族は八月の地蔵盆を済ましてから、廿九日の日曜の夜行で上京する、辰雄もその時は前日の土曜日からかけて大阪へ帰って来、出発の当夜駅頭に於いて改めて親戚知友の見送りを受ける、と云うことに極まった。

姉の鶴子は八月に這入ると、親戚や夫の銀行関係の方面などへ、毎日一二軒ずつ挨拶廻りをしていたが、廻るべき所へ一と通り廻ってしまったあとで、最後に蘆屋の分家、―――幸子の所へ、二三日泊りがけでやって来た。