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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

二十

て次のように纏めてみた。―――

平安神宮にて花の散るを見て

ゆく春の名残惜しさに散る花を

袂のうちに秘めておかまし

彼女はそれを夫の歌のあとの余白へ鉛筆で書き添えて、もとの通り机の上にひろげておいたが、貞之助は夕方帰って来て、それに気が付いたのかどうか何の話もせず、幸子も忘れてしまっていた。が、その明くる朝、彼女が書斎を片附けに行くと、机の上に昨日の通り紙きれが載っていて、彼女の歌の又あとへ、貞之助の手で、それをこう訂正してはと云うつもりなのでもあろうか、次のような歌が記されていた。―――

いとせめて花見ごろもに花びらを

秘めておかまし春のなごりに

二十

「あんた、ええ加減にしときなさい、そない一遍に精出したら、しんどおまっせ」

「そうかて、やり出したら止められへん。―――」

貞之助は今日の日曜に、先月花を見に行ったばかりの京都へ、もう一度幸子を誘って新緑を見に行くつもりであったが、幸子が今朝から気分が悪くて何となく体が大儀だと云うので、出かけることを見合せて、午後から庭の草むしりに熱中していた。

いったい此処の庭の芝生は、もとこの家屋敷を譲り受けた時分には生えていなかったのであるが、此処は芝をお植えになっても着きませんよと云う前の持ち主の忠告を押し切って、強いて植えさせたのは貞之助であった。