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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
01 上巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页
先方さんへは寔にお気の毒ですけれども、何とか私から巧い工合に申しますから、その点は御心配なく、………」
貞之助は相手の如才ない言葉にほっとして、用談を終えると怱々に辞したが、井谷は玄関へ送って出ながらも、気を悪くしているどころではない、自分こそ済まないと思っていると繰り返して云った。そして、きっとこの埋め合せに良い話を持って行くから待っていて戴きたい、なあに、そんなにお案じなさらないでも、あのお嬢さんなら必ずお引き請けしますから、何卒奥様にもそう仰っしゃって下さるようにと、頻りに云うのが、日頃の井谷の気象として、満更口先ばかりのようにも受け取れないので、この様子では事実そんなに感情を害してもいないのかと思えた。
その数日後、幸子は大阪の三越へ進物にする呉服物を調えに行き、それを持って岡本へ廻ったが、井谷がまだ戻っていなかったので、品物だけ置いて、伝言をして帰って来た。と、翌日井谷から幸子へ宛てて慇懃な礼状が来、何のお役にも立たなかったばかりか、自分の不行き届きから却っていろいろと無駄なお手数を掛けた結果に終ったのに、こう云う御心配にあずかって相済まなく思っていると云う文句のあとに、必ずこのお埋め合せは致しますからと云う言葉が、そこにも繰り返して添えてあったが、それから十日ばかり過ぎて、今年も残り僅かになった