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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

幸子はいつも冬の間に気管支加答児を患う癖があり、悪くすれば肺炎になりますと医者に嚇かされて一箇月近くも臥るのが例になっているので、些細な風邪にもひどく用心するのであるが、好い塩梅に今度は咽喉で食い止めたらしくて、漸く平熱に復しつつあった。で、いよいよ押し詰まった廿五日に、まだ一日二日は部屋に籠っているつもりで、寝床の上にすわりながら新年の雑誌を読んでいると、これから本家へ帰るのだと云って、妙子が左様ならを云いに来たので、

「何でやねん、こいさん、まだお正月には一週間もあるのんに」

と、幸子は軽く訝しむように云った。

「去年はこいさん、大晦日に帰って行ったやないか」

「そうやったか知らん。………」

妙子はここのところ、来年早々第三回目の人形の個展を開くためにずっと製作に熱中していて、もう一箇月も前から毎日の大部分を夙川のアパートで暮していたが、その間に又、舞の稽古も捨てられないと云って、一週に一度ずつ大阪の山村の稽古場に通っていたので、幸子は暫くこの妹とおちおち顔を合わしたことがないような気がしていた。彼女は本家が妹たちを大阪へ呼び寄せたがっていることを知っているので、決して手元へ引き留めるつもりはないのだけれども、雪子以上に本家へ行くことを嫌う妙子が、例年になく早く帰ると云い出したのを、何がなし不思議に思ったので