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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

云うねんけど、発音がけったいで早口やさかい、『あなたクニドコでごぜえます』と聞えるねんわ。そんで、うち、『わたし大阪です』云うてしもてん」

妙子は人の癖を取るのが上手で、誰の真似でも直ぐにして見せて皆を笑わせることが得意なのであるが、その「キリレンコのお婆ちゃん」の身振や口真似が余り可笑しいので、幸子たちはまだ会ったこともない西洋のお婆さんを想像して腹を抱えた。

「けど、そのお婆ちゃん、帝政時代の露西亜の法学士で、偉いお婆ちゃんらしいねんわ。『わたし日本語下手ごぜえます、仏蘭西語独逸語話します』云うてはるわ」

「昔はお金持やってんやろな。幾つぐらいやのん、そのお婆ちゃん」

「さあ、もう六十幾つやろか。けどまだちょっとも耄碌してはれへん。とても元気やわ」

それから二三日過ぎて、妙子は又その「お婆ちゃん」の逸話を持って帰って来て、姉たちを面白がらせた。妙子はその日、神戸の元町へ買い物に出た帰りにユーハイムでお茶を飲んでいると、そこへ「お婆ちゃん」がカタリナを連れて這入って来た。そして、これから新開地の聚楽館の屋上にあるスケート場へ行くのだと云って、あなたもお暇なら是非いらっしゃいと頻りに誘った。