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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

「トルストイ、ドストイェフスキー、日本の人は皆読みます」

と、キリレンコがウロンスキーに云った。

「こいさん、どうしてウロンスキーさん知ってるのん」

と、幸子が聞いた。

「この人、この近所の夙川ハウス云うアパートに住んではるねんけど、えらい子供好きで、何処の子供でも可愛がりはるのんで、『子供の好きな露西亜人』云うたら、この辺で有名やねんわ。誰も『ウロンスキーさん』云わんと、『コドモスキーさん』云うてるわ」

「奥さんは」

「持ってはれへん。何や、気の毒な話あるらしいねんけど、………」

ウロンスキーは成る程子供好きらしい、柔和な、何となく気の弱そうなところのある淋しい眼元に微笑を含んで、眼尻に小皺を寄せながら、自分が噂されているのを黙って聞いていた。キリレンコよりは大柄であるが、引き締った肉づき、日焼けしたような茶褐色の皮膚の色、胡麻塩の濃い毛髪、黒い瞳の色など、日本人に近い感じで、何処やらに船員上りと云った風な様子があった。

「今夜は悦子さん入らっしゃらないんですか」

「はあ、あの児、学校の宿題があるものですから、………」

「それは残念ですね。わたし、ウロンスキーさんに、今夜は非常に可愛らしいお嬢さんを見せて上げると云って、連れて来たところだったんです」