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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

「今のとこ、雪子ちゃんは何も考えへんかてええねん。気イ進まんかったら、こんな話聞かなんだことにしときなさい。折角云うて来てくれはったよってに調べてみよう思うてるけど。―――」

「中姉ちゃん、―――」

雪子は何と思ったか、しずかに此方を向き直りながら、努めて口元に微笑を浮かべるようにして云った。

「―――縁談の話やったら、云うてほしいねんわ。あたしかて、そんな話がまるきりないのんより、何か彼か云うてもろてる方が、張合があるような気イするよってに。―――」

「そうか」

「ただ見合いだけは、よう調べてからにしてほしいねん。外の事はそんなにむずかしゅう考えてくれんかてええねんわ」

「そうかいな。そない云うてくれると、あたしかてほんまに骨折がいがあるねん」

幸子は身支度をしてしまうと、そんならちょっと、晩の御飯までに帰って来るよってに、と云い置いてひとりで出かけたが、雪子は姉が脱ぎ捨てて行った不断着を衣紋竹にかけ、帯や帯締を一と纏めにして片寄せてから、なお暫くは手すりに靠れて庭を見ていた。

蘆屋のこのあたりは、もとは大部分山林や畑地だったのが、大正の末頃からぽつぽつ開けて行った土地なので、この家の庭なども、そんなに広くはないのだけれども、昔の面影を伝えている大木の松などが二三本取り入れてあり、西北側は隣家の植え込みを隔てて六甲一帯