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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
01 上巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页
の山や丘陵が望まれるところから、雪子はたまに上本町の本家へ帰って四五日もいてから戻って来ると、生れ変ったように気分がせいせいするのであった。彼女が今立って見おろしている南側の方には、芝生と花壇があり、その向うにささやかな築山があって、白い細かい花をつけた小手毬が、岩組の間から懸崖になって水のない池に垂れかかり、右の方の汀には桜とライラックが咲いていた。但し、桜は幸子が好きなので、たとい一本でも庭に植えて自分の家で花見をしたいからと、二三年前に入れさせたもので、それが咲く時はその木の下に床几を出したり毛氈を敷いたりするのだけれども、どう云う訳か育ちが悪くて、毎年頗る貧弱な花をしか着けないのであるが、ライラックは今雪のように咲き満ちて、芳香を放っていた。そのライラックの木の西に、まだ芽を出さない栴檀と青桐があり、栴檀の南に、仏蘭西語で「セレンガ」と云う灌木の一種があった。雪子たちの語学の教師であるマダム塚本と云う仏蘭西人が、自分の国に沢山あるセレンガの花を、日本へ来てから見たことがなかったのに、この庭にあるのは珍しいと云って、ひどく懐しがってから、雪子たちもこの木に注意するようになり、仏和辞典を引いてみて、日本語では「さつまうつぎ」