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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
01 上巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页
ひどく傷つけられる自分であるとは思っていない、それより今度のことが原因で、こいさんが僻み出して不良にでもなったらどうするか、兄さんのすることは万事理窟詰めで、情味がない、第一これほどのことを、最も利害関係の深い私に一言の相談もせずに実行するとは専横過ぎる、―――と云うのであったが、妙子は妙子で、兄さんが雪姉ちゃんのために証を立てて上げるのは当り前だけれども、私の名を出さないでも済ませる方法もあったろうではないか、相手は小新聞なのだから、何とか手を廻せば伏せてしまうことが出来たろうものを、兄さんはそう云う場合にお金を吝しむからいけない、―――と、これはその時分から云うことがませていた。
辰雄はこの新聞の事件の時、世間に合わす顔がないと云って辞職願を出した程であった。尤もその方は「それには及ばぬ」と云うことで無事に済んだが、雪子が受けた災難の方は何としても償いようがなかった。たまたま幾人かの人は、正誤の記事に気が付いて彼女の冤罪を知ったでもあろうが、彼女は潔白であったにしても、そう云う妹娘のある事実が知れ渡ったことは、姉娘を、その自負心にも拘らず、いよいよ縁遠くする原因になった。