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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

ない、それで、この際幸子ちゃんへ折入っての頼みと云うのは、二人は幸子ちゃんの云うことなら聴くのだから、幸子ちゃんから巧い工合に説き付けて貰えないであろうか、誤解してくれては困るが、こう云ったからとて、二人が戻って来ないのを幸子ちゃんのせいにしているのではない、いっぱし分別のある大人で、もう奥様と云われてもよい年頃になっているものが、厭だと云うのを、端から何と云ったって、そう無造作に、子供を引き戻すような訳に行かないことは云う迄もないが、誰から云うよりも、幸子ちゃんから云って貰うのが一番利き目がありそうだと云うことに相談がきまったので、是非一つ承知させて貰いたい。そう云って叔母は、

「今日は雪子ちゃんもこいさんもお内にいてやおまへんか」

と、昔ながらの船場言葉で云った。

「妙子はこの頃ずっと製作が忙しいて、めったに戻ってけえしえへん。………」

と、幸子も古めかしい云い方に釣り込まれながら、

「………雪子はおりゃっけど、呼んで来まおか」

雪子はさっき、玄関に叔母の声が聞えた時から姿が見えないのであるが、多分二階の部屋へ逃げ込んで小さくなっているのであろうと、幸子は察して、上って行ってみると、果して六畳の居間の、悦子の寝台に腰かけたまま俯向いて考え込んでいる様子が、簾越しに見えた。