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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
01 上巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页
させて下さるなら更に有難い、此方の姉さんは一番理解がおありになり、こいさんの同情者であられると伺っていたので、こんな勝手なお願いをするのだけれども、―――と云うのであった。幸子は一往伺ってだけおきますと云う風な挨拶をして、承知したともしないとも云わずに帰したが、奥畑が話した程度のことなら、まるきり想像していないでもなかったので、そんなに意外には感じなかった。正直のところ、一度新聞にまで謳われてしまった間柄である以上、二人を一緒にさせるのが最良の道であることは分っていたし、本家の兄や姉達も結局は同じ考に落ち着くことと思っていたのであるが、ただ雪子の心理に及ぼす影響を慮って、出来ればその問題は先へ延ばして置きたかったのであった。で、その日、奥畑を送り出したあとで、しょざいない時にはそうするのが癖の、ひとり応接間のピアノに向ってあれかこれかと譜本を引っぱり出しながら弾いているところへ、頃合を測って夙川から戻ったのであろう、妙子が何気ない顔をして這入って来たのを見ると、幸子はちょっと手を休めて、
「こいさん」
と云った。
「―――今奥畑の啓ぼんが帰って行かはった」