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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

も、そう云っても縁のものだから、雪子の考を聞いてみないうちは打壊しな行動も取りたくないし、この話がどうなるにしても又どんなことで世話になるかも分らないのに、陣場夫婦の顔を立てないのも如何であろうか、………この人達だって、気は利かないが親切でしてくれているには違いないのだから、………と云ったような弱気が、もともと腹の底にあるので、そんならちょっとだけ寄せて戴きましょうかと、先ず幸子が云い出したのを切掛けに、我を折ってしまった。

しかし此処でも野村の家へ行く迄には、足場の悪い、細い急な坂路を二三十間も上るのであった。野村は非常な燥ぎ方で、子供のように喜んでしまって、海の方が見える座敷の雨戸を大急ぎで開けさせ、書斎を見て戴きましょうと云って、ついでに家じゅうの部屋を台所まで案内して廻った。それが平屋建ての、六間ばかりしかない粗末な借家なのであったが、野村は仏壇のある六畳の茶の間へ引っ張って行って先妻と二人の子供の写真が飾ってある光景までも見せたりした。陣場は座敷に通されると、なるほどこの眺望は素敵ですな、仰っしゃる通り北京楼以上でございますなと、早速お世辞を云うのであったが、でもその座敷と云うのが、高い石崖の縁すれすれに建っていて、縁側にいると体が崖の外へ食み出しそうな、落ち着きの悪い気がするので、貞之助などは