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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
01 上巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页
二十九
、自分であったらこう云う家にはとても不安で住んでいられそうもなく思えた。
珈琲を呼ばれるとそこそこに、待たせて置いた自動車に乗ったが、
「今夜は野村さん、えらい御機嫌やったやないか」
と、走り出してから陣場が云った。
「ほんに、野村さんがあないにしゃべらはるのん、今まで見たことあれへんなんだ。やっぱり若い綺麗な人が傍にいたはったせえやねんな」
と、夫人も合槌を打ちながら、
「なあ、幸子さん、野村さんの気持はもう聞かんかて分ってるさかいに、あんた等の考一つやわ。財産のないのんが欠点には違いないけど、そんでも浜田さんが附いてはるよってに、どんなことがあったかて生活に困るようなことはさせはれへん。何ならその点を、もっとはっきり浜田さんに保証して貰おやないの」
「いや、有難う。ほんとうにいろいろとお骨折に与りまして、………いずれ相談いたしまして、本家の意見も聞きました上で、………」
と、貞之助は切り口上で答えたが、それでも車から下りしなには、陣場夫婦に少し気の毒をしたようにも感じて、
「今夜はえらい失礼をいたしまして」
と、二度三度詑びを云った。
二十九
中一日置いて、十七日の朝蘆屋へ訪ねて来た陣場夫人は、一昨日無理をしたために幸子が又臥ていると聞くと、さすがに今度は恐縮しながら、三十分ほど枕もとで話して帰ったが、要するに、野村さんから