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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
01 上巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页
「ほんに、考えようやわな。雪子ちゃんがそう云う気イなら、それもええかも知れん。………」
と、だんだんそんな工合に持って行って、もっとはっきり突き止めようとすると、
「………そやけど、あまり執拗うちやほやされたら叶わんやろうし、………」
と、ニヤニヤ笑いながらはぐらかして、もうそれ以上は、話に乗って来ないでしまった。
東京へはあの明くる日に、見合いが済んだことだけを臥ながら一筆走らせてやったが、姉からは何の返事もなかった。幸子はお彼岸の間じゅう臥たり起きたりして暮したが、或る日の朝、一遍に春らしくなった空の色に惹かれて、病室の縁側まで座布団を持ち出して日光浴をしていると、ふと、階下のテラスから芝生の方へ降りて行く雪子の姿を見つけた。彼女は直ぐ、雪子ちゃん、―――と、呼んでみようかと思ったけれども、悦子を学校へ送り出したあとの、静かな午前中の一時を庭で憩おうとしているのだと察して、硝子戸越しに黙って見ていると、花壇の周りを一と廻りして、池の汀のライラックや小手毬の枝を検べてみたりしてから、そこへ駈けて来た鈴を抱き上げて、円く刈り込んである梔子の樹のところにしゃがんだ。