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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

01 上巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页

青空文庫

「ええか、あんじょう留守番頼みまっせ」

「お土産分ってるなあ、姉ちゃん」

「分ってる。こないだ見といた御飯の炊ける玩具やろ」

悦子は本家の伯母のことだけを「おばちゃん」と呼び、二人の若い叔母のことは「姉ちゃん」「こいちゃん」と呼ぶのであった。

「きっと夕方までに帰るなあ姉ちゃん」

「ふん、きっと帰る」

「きっとやなあ」

「きっとや、お母ちゃんとこいちゃんは神戸でお父さんが待ってはるさかい、晩の御飯たべに行くけれど、姉ちゃんは帰って来て悦ちゃんと一緒に内でたべる。何ぞ宿題あるのんやろ」

「綴方があるねん」

「そんなら遊ぶのんええ加減にして、書いときなさいや、帰ってから見たげるよってに」

「姉ちゃん、こいちゃん、行ってらっしゃい」

そう云って玄関まで送って来た悦子は、スリッパアのまま土間へ降りて、敷石の上を跳びながら門の際まで二人の叔母の跡を追って出た。

「帰るなあ、姉ちゃん、ついたらいかんよ」

「何遍一つこと云うてるのん、分ってるがな」

「帰らなんだら悦子怒るよ、ええか姉ちゃん」

「ああうるさい、分ってる、分ってる」

雪子はしかし、自分が悦子からそう云う風に慕われているのが嬉しいのであった。