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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
01 上巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 150,580 字 · 287 页
と云われてからもまだ暫く死んだようになっていたのが、「もう行きなさい」と二三度云われると、漸く聞き取れない程の微かな声で詑び言を云って立って行ったが、
「いつも云われてる癖に、何と云うおしゃべりやろ」
と、幸子はまだ機嫌の直らない雪子の顔色を窺い窺い云った。
「やっぱり私が不注意やってんなあ。電話かけたりする時に何とかあの人等に分らんような云い方もあってんけど、まさか子供に教せたりするとは思てえへんよってに、………」
「電話もそうやけど、この間からお春どんの聞いてるとこで見合いや何や云うて相談してたのん、気になってたんやわ」
「そんなことあったか知らん」
「何遍もあったわ。―――話してるとこへ這入って来ると、その時は誰も止めるけれど、出て行ってまだドーアの外にいるのんに、大きな声で話しやはるよってに、あれ聞えてたに違いない思うててん」
そう云えば、先日から数回、いつも悦子が寝てしまってから、夜の十時過ぎ頃に、貞之助、幸子、雪子、時には妙子も加わって、応接間で今日の見合いのことについて相談したことがあり、そこへお春が時々飲み物などを運ぶのに、食堂を通って這入って来たが、その食堂と応接間の境界は三枚の引き戸になっていて、戸と戸の間が指が入れられる程透いているところから、食堂にいると応接間の話声が可なりよく聞えるのであった