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うつくしいにほんのれきし

美しい日本の歴史

吉川 英治

「週刊文春」1959(昭和34)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,561 字 · 37 页

青空文庫

それは陛下のお座所から諸殿の廊下にまでともされる毎晩の百目蝋燭は一本百匁以上もある大きな物であり数も相当な消費になるが、やがて陛下がご寝所にお入りになると、むかしで言う舎人のような下級宮内官吏が、蝋燭バサミと黒塗りの鑵のような物を提げて、その一本一本のとぼし残りをふッと吹いては鑵に入れて消して廻る。

そこでこの蝋燭屑が、毎晩のことなので、一年には相当な量になる。しかしこれは半年毎に、宮内省御用達の蝋燭屋が、裏門からそっと引き取って行って、代りにこの蝋屑の“お蝋代”なる金一封が、その係りの袖の下へ内々渡されるという多年のしきたりになっている。それから又、このささやかなるお蝋代の分配にあずかって、彼ら薄給仲間のお座所廻りの小官吏たちは、年末ならそれを家庭の餅代に当てたり、中元ならお盆の用途や女房子のために浴衣の一枚ずつも買ってやったりしていたのである。

『どうも、なにも仰っしゃらないけれど、陛下はちゃんとそれを御存知なのじゃないでしょうか。どう考えても、ほかに陛下が電燈嫌いなわけは思い当りませんし、それにお座所まわりの下級官吏たちの給料は、物価はずいぶん上って来ているのに、いぜん昔の儘ですから』