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くしんのがくゆう

苦心の学友

佐々木 邦

「少年倶楽部」1927(昭和2)年10月号~1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,732 字 · 332 页

青空文庫

物が朦朧と大きく見える。

「きみ、きみ」

と照彦様がたちどまった。

「はあ?」

と正三君も足がすくんだ。

「あれはなんだろう?」

「さあ」

「動いているぞ」

「杉の木ですよ」

「ああ、そうか。なんだ。きみ、歌を歌いながらゆこう」

と照彦様が発起した。しかし長くは続かなかった。

「なんだろう?」

「音がしましたね」

「あ、またした。風だ」

「そうです。大和魂をおこしましょう」

「魂はこんな晩に飛んで歩くそうだぜ」

「いやですよ、そんなことをおっしゃっちゃ」

坂道にかかってからは提燈が見えたので少し元気が出た。まもなくおいなりさまへたどりついた。二人はそこに用意してあった筆をとって姓名をしたためた。花岡照彦は画が多いから損だった。内藤正三は少しとくだった。しかしどっちも手がふるえていた。用がすんでしまうと急に怖くなった。坂道が一番さびしい。風のくるたびに薮がガサガサする。下りきった時、その薮の中で、

「ハクション」

と虎の杉山がくしゃみをした。二人はボールのようにはねあがった。それから畑の中をいちもくさんに走って帰ってきた。

「しまった」

と照彦様がいった。

「どうなさいました?」