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くしんのがくゆう

苦心の学友

佐々木 邦

「少年倶楽部」1927(昭和2)年10月号~1929(昭和4)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,732 字 · 332 页

青空文庫

「そうだとよろしゅうございますがね」

「そうでなくてどうする? お殿様じきじき折り入ってお願いがあるというんだもの。おまえはわしにもっと敬意を表さなければいけないよ」

とお父さんはいばってみせた。

晩ごはんのときも伯爵家の話が出た。なんだかわからないが、番町のおやしきからのおさたはみんなの心持ちを陽気にした。

「お父さん、とにかくおでんと蜜豆がいただけますね」

と正三君がいった。

「おでんと蜜豆?」

「ばかだなあ。あれは観桜会のときだけだよ。おやしきにふだんおでんや蜜豆があるもんか」

とお兄さんの祐助さんが笑った。この春二人で観桜会へお父さんのお供をしたのである。

正三君は兄さんが二人と姉さんが二人ある。一番上の兄さんはもう帝大を卒業して朝鮮総督府へつとめている。つぎの祐助君も来年出る。姉さんは一人女学校がすんで、もう一人在学中だ。正三君はこの四月から府立中学へはいった。五人が五人、みんなそろって成績がよい。お父さんは鼻が高い。

「うちの子供はみんなおれに似たんだよ」

とおっしゃる。

「いいえ、女の子は母親に似たんでございますよ」

とお母さんも権利を主張する。