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くものゆめ

蜘蛛の夢

岡本 綺堂

岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页

青空文庫

「どんな女です。」と、お杉は念のために訊いた。

「二十二、三の人で、藤沢から来たといえば判るということでございました。この雨のなかをびしょ濡れになって……。」

二人はいよいよ薄気味悪くなった。この雨のなかをびしょ濡れになって藤沢から追って来た以上、なにかの覚悟があるに相違ない。今度はさざえの殻ぐらいでなく、短刀か匕首でも忍ばせて来たかも知れない。それを思うと、二人は魔物に魅まれたように怖ろしくなって来た。

「どうしたもんだろう。」と、お杉は途方に暮れたようにささやいた。

「そうですねえ。」

義助も返事に困ったが、この場合、家来の身として主人の矢おもてに立つのほかはないと決心した。

「よろしゅうございます。わたくしが行って、どんな用か聞いてみましょう。」

「お前、気をおつけよ。」と、お杉は不安らしく言った。

思い切って起ち上がろうとする義助を、四郎兵衛は呼びとめた。彼はいつのまにか目を醒ましていたのである。

「義助、お待ち……。藤沢から来た女はわたしが会おう。」

「いいかえ。お前が会っても……。」と、お杉はいよいよ不安らしく言った。

「義助はなんにも知らないのですから、会ったところでどうにもなりません。