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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
田島はその翌あさ帰った。それから十九日まで一週間の日記は甚だ簡単で、しかもところどころ抹殺してあるので殆ど要領を得ない。しかしお冬がその日まで森君の宿屋に一緒に泊っていたことは事実である。森君はあまり綿密に日記をつけている暇がなかったらしい。八月二十日以後の日記にはこういう記事が見えた。
二十日、晴。けさは俄かに秋風立つ。午後一時ごろに六兵衛老人は宇都宮から突然に帰って来る。おどろいてきけば、殺人の嫌疑は晴れたる由。老人はその以外には口をつぐんでなんにも言わず。お冬さんは嬉し涙をこぼして自分の家へ帰る。予も一緒に行く。近所の人たちも見舞に来る。めでたきこと限りなし。――夜七時頃にお冬さんがたずねて来て、二時間ほど語りて帰る。夜はもう薄ら寒きほどなり。当分当地に滞在する由をしたためて、東京の兄や友人らに郵書を送る。兄からは叱言が来るかも知れねど是非なし。
二十一、二十二の二日間の日記には別に目立った記事もない。ただ森君がお冬さんと親しく往来していた事実を伝えているのみである。二十三日には折井探偵が再びこの町に姿をあらわしたと書いてある。芸妓の小せんは再び拘引された。