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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
もしその住所がわかっていれば念のために聞合せるのであるが、片門前とばかりでは少し困る。父は再びかの米屋へ行って、安達の奥さんという人が重ねて来たらば、その住所番地を聞きただして置いてくれと頼んだ。
それでも父はまだ気になってならなかった。米屋の主人の話によると、かの奥さんはあまり都合が好くないらしいという。してみれば、埋めてある財を一日も早く取出したいと思っているに相違ない。片門前は二町であるが、さのみ広い町ではない。軒別さがして歩いても知れたものであると、父はその次の日曜日に思い切って探しに出た。広い町でないといっても、一丁目から二丁目にかけて軒別に探しまわるのは容易でない。父はほとんど小半日を費して、ついに安達という家を見いだし得ないで帰った。あるいは他人の家に同居でもしているのではないかとも思われた。
この上は米屋の通知を待つのほかはなかったが、安達の奥さんは再び米屋の店にその姿をみせなかった。わたしの庭の空地へも誰も忍んで来る様子はなかった。
それから又、半月あまりを過ぎて、九月はじめの新聞紙上に片門前の女殺しの記事があらわれた。森川権七という古道具屋の亭主がその女房のおいねを殺したというのである。