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くものゆめ
蜘蛛の夢
岡本 綺堂
岡本綺堂『蜘蛛の夢』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蜘蛛の夢、穴、有喜世新聞の話、恨みの蠑螺、火薬庫、真鬼偽鬼、慈悲心鳥、女侠伝、廿九日の牡丹餅、放し鰻、馬妖記、平造とお鶴。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,189 字 · 298 页
馬車もさのみ多くはなかったが、人力車が衝突したとか人力車に轢かれたとかいう事故は、毎日ほとんど絶えなかった。
今夜の出来事もその一つである。お銀はやはり顔をしかめながら聞いていると、お新がそばから喙を出した。
「どこの娘さんか知りませんけれど、服装はいいというほどじゃありませんけれど、容貌はなかなかいいんですよ。なんでも士族さんの娘さんでしょうね。」
士族さんなどという言葉が、この時代には盛んに用いられた。お銀の家も中国辺のある藩の士族さんであった。
それだけの話を聞いてしまって、お銀は自分の家へ引っ込むと、せがれの友之助が帰って来た。かれは母から今夜の話を聞かされても、別に気にも留めないらしかった。前にもいった通り、人力車に突き当ったり轢かれたりするのは珍しくもなかったからである。
二
溝口医師の車にひかれた娘は、幸いにたいした怪我でもなかった。ひき倒されて転んだときに、左の臂と左の足とを摺りむいただけのことで、出血の多かった割合に傷は浅かったので、溝口もまず安心した。
あくる日一日は無理に寝かしておいたが、娘は次の日から跛足をひきながら起きた。