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おいついたゆめ
追いついた夢
山本 周五郎
「面白倶楽部」光文社、1950(昭和25)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,427 字 · 41 页
……おけいがそれを知ったのは三十日ほどまえのことである。このあいだ約半年、家主の万兵衛に金を借りたし、それこそ売れないような物まで売りつくした。
――お父つぁんは仕合せだった。
母親は独り言のようによくそう言った。
――少しもなが患いをしないで、あんなに早く死ねて、……あたしが代れたらよかったのに、こんなふうでおまえにまで苦労をかけて、辛い思いをしてまだ死ねないなんて、……業が深いっていうんだろうけれど、つくづくお父つぁんが羨ましいよ。
宇之吉も苦しいなかでよくちからになって呉れた。口の重い性分で、いつもむっと怒ったような顔をしているし、して呉れることもたかの知れたものだったが、おけいにとっては大きな心の支えであり、頼りであった。そうして、急速に二人の思いが結びついていった。
――辛抱しよう、おけいちゃん、いまによくなってゆくよ、もう暫くだよ、苦しいだろうが、きっといまになんとかなるからな。
宇之吉はそう云って励まして呉れた。しかしその彼自身がまた不幸にみまわれていた。いちばん下の弟の九つになる竹次が、この正月にひどい怪我をした。木登りをして遊んでいたのが落ちて、額を割り右の太腿の骨を折った。