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おいついたゆめ
追いついた夢
山本 周五郎
「面白倶楽部」光文社、1950(昭和25)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,427 字 · 41 页
五
五
それからまる三日、和助は最後の仕上げのために奔走した。すっかり手順がつき、用意がととのった。
その日は三軒ばかり客筋をまわって、昏れ方に銀座の店へ帰った。主人の儀兵衛は町内の寄合にでかけたという、和助は自分の机でその日の帳締めにかかったが、途中でやめて、手代の増吉を呼んだ。
「どうも頭が痛くっていけない、風邪でもないらしいんだが、……どうにも気分が悪いから、おまえこれを締めといて呉れないか」
「へえよろしゅうございます」
「医者におどかされてから、頭が痛むとすぐ神経にこたえる、いやな心持だ」
和助はまえから、――医者に中気のけがあると云われた。ということを事実らしく云い、頭をやすめるために海へ釣りにゆくという理由で、ときどき店を休んだ。釣りにゆくのもまるっきり嘘ではないが、おもな目的は、誰にも知られてはならない必要な時間を取ることであった。そして今ではもう、彼に「中気のけがある」ということは、家でも店でも知らない者はなかった。
「明日はことによると休むかもしれない、旦那がお帰りになったらそう云って、それから……と」和助は片手で額を揉んだ、「――島屋さんではこの十日に返済なさるということだったから、それも旦那に申上げといてお呉れ」