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おいついたゆめ

追いついた夢

山本 周五郎

「面白倶楽部」光文社、1950(昭和25)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,427 字 · 41 页

青空文庫

七

「どっちにしてもよくは云われねえ、まったくこいつはとんだことをしたもんだ」

和助は呻いた。彼は調布村の家を思い、土蔵の中の金品を思い、そしておけいを思った。玉川の流れを見おろす閑静な土地、それは彼のものである、ぎっしり詰った書画骨董、八千余両の金、それも彼のものだ。緻密に計画し、執拗に狡猾に、十年のあいだ営々と、用心に用心して作りあげたものだ。そしてあのおけい、……風呂場で見たあの裸。横からも前からもうしろからも、立ったり跼んだり、まるさもなめらかさもふくらみも、残りなく見たあの唆るような若い躰。それも彼のものである、そしてこれらはすべて彼を待っている、殆ど手の届くところに、……もう半日、いや二時間早ければそこへいけた、仮に倒れたとしても、そこまでゆけば安心できた。

――いやだ、此処では死ねない、死んでなるものか、おけい、……あの家屋敷、みんなおれのものだ、おれの。

七

それから二年余の月日が経った。

調布村の家はすっかり空気が変っている。おたみが引取られて寝ているし、宇之吉と妹のなほも来ていた。……おけいの母親は、おけいがこっちへ来て半年めに引取ったのだが、宇之吉となほはつい数日まえに移って来たのである。