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おいついたゆめ
追いついた夢
山本 周五郎
「面白倶楽部」光文社、1950(昭和25)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,427 字 · 41 页
四
「泣くまいと思ったって、泣けちゃうじゃないの、こんなに、しぜんに声が出てきちゃうわ」
咽びあげる声に笑いがまじった。そのおけいの顔へ、宇之吉がのしかかるような姿勢になり、うっと喉へ声の詰るのが聞えた。……汀では頻りに波の音がし、闇の向うに佃島の燈がちらちらとまたたいていた。
四
尾花屋を駕籠で出て、永代橋を渡ったところで下り、水天宮の近くで辻駕籠に乗ったが、それも京橋八丁堀で下りた。こうして五度も駕籠を乗り替えたうえ、目黒から大山道を西へまっすぐにゆき、柿の木坂というところで、掛け茶屋へはいってひと休みした。
「遠いのでさぞ吃驚したろう」
茶店を出て、こんどは歩きだしながら、こう云って和助は振り返った。おけいは淋しそうな微笑をうかべ、そっと首を振った。
「こっちのほうへ来たことがあるかね」
「いいえ、初めてです」
「下町の人間は出不精だからな」
和助はきげんのいい調子で笑った。
大山道を左へ曲り、丘へ登って、松林の中を二町ばかりいった。あたりはすっかり田舎の景色であった、どっちを眺めても林や草原や畑ばかりで、農家らしいものも稀にしか見えなかった。……五度も駕籠を乗り替えたのは、駕籠舁きなどに足取りを知らせないためであろう、そのうえ閑居というにはあまりに土地が辺鄙すぎる。