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おいついたゆめ

追いついた夢

山本 周五郎

「面白倶楽部」光文社、1950(昭和25)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,427 字 · 41 页

青空文庫

そのなかで和助だけはひそかに心で刃を研いでいた。……店は「近正」と呼ばれ、金銀地金の売買と両替を兼ね、またかたわら高利の金融もやっていた。彼は辛抱づよかった、決していそがなかった。ひそかに覘うもののために、彼は誰よりも勤勉に働き、誠実に店の利益を守った。それは彼の復讐心をさらに強くしたが、周囲の信用を集める効果もあげた。

彼は吝嗇に銭を溜め、狡猾にくすねた。二十一で手代になり、やがて番頭になった。店を持たせてやろうと云われたが断わり、嫁を貰えと云われたが断わった。そして三十の年には支配人になり、金融の仕事を任された。だがそれにはお幸を嫁に貰うという代価を払った……、なぜならお幸は主人儀兵衛の姪で、二十五になっても嫁入りぐちがなく、主人夫妻ももてあましたかたちであった。それをこっちから望んで嫁に取ることが、どういう効果をあらわすか、和助は充分に知っていた。

和助は新銭座に家を持ち、店へかよい、客筋を自分でまわった。彼は確実に利益をあげ、顧客を殖やした。だがそのあいだに「近正」という背景を利用して、ひそかに彼がふところをこやしていることは、知る者がなかった。