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おいついたゆめ
追いついた夢
山本 周五郎
「面白倶楽部」光文社、1950(昭和25)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,427 字 · 41 页
疑うにはあまりに誠実であり勤勉であった、仕事の慥かさ、人柄の堅さ。……主人や店の者は云うまでもなく、関係のある人すべてが彼を信じた。
――だがいまにわかるだろう、いまに、おれがどんな人間だったかということが。
彼は心のなかでいつもそう嘲笑していた。彼のあいそ笑い、揉み手、追従、跼める腰、卑屈な低頭。その一つ一つが復讐の誓いを強くし、決心に執拗さを加えた。……十年まえ、三十四の年に荏原郡調布村に土地を買った。それから今日まで周到に狡猾に、そして極めて用心ぶかく事を運んだ。家が建ち土蔵が建った、書画骨董、茶器、必要なあらゆる道具が揃い、土蔵の中には八千両余りの現銀が溜った。彼のめあては壱万両である、もうひと息というところへ来ていた、しかし、そのときふと危険な予感がし始めた。……そんな理由はない筈である、万が一にも尻尾を掴まれる筈はない、そんなへまなことは決してしてはいなかった。にも拘わらずその予感はかなり強かった。……そうだ、満つれば欠けるということもある。和助はこう思って、きっぱりと打ち切る決心をした。
「――なにか云いましたか」
お幸が向うから声をかけた。