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おいついたゆめ

追いついた夢

山本 周五郎

「面白倶楽部」光文社、1950(昭和25)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,427 字 · 41 页

青空文庫

おけいはそっと隣の女房の側へ来て坐った。

「いつも済みません、おばさん」

「ぬるくなったかもしれないよ。良庵さんに出したあとだから……」

音を忍ばせて茶を注いでやり、自分のにも注いで、おむらはうかがうようにこっちを見た。

「どうだったの、話は」

「ええ定めて来たわ、すっかり」

「相手はどう、よさそうな人かえ」

「わからないけれど」おけいは湯呑を取って眼をそむけた、「――でもおっとりした人だったわ、少し肥っていて、丈夫そうな」

「どんな商売をしているの」

「それがわからないの、お店は大阪とこっちと両方にあるって云うし、かなり大きくやっているらしいんだけれど、そのお店がどこにあってどんな商売をしているんだか、尾花屋のおかみさんも知らないらしいのよ」

「そんなこと云っておけいちゃん、もしもその人が悪い事でもしている人間だったりしたら、いやじゃないの」

「しかたがないわ、あたしお金が要るんですもの」おけいは微笑した。

「たとえ相手が泥棒だって、凶状持ちだって、……でも大丈夫よおばさん、そんな人でないことは慥からしいから」

おむらは溜息をついた。それから衿へ掛けてある手拭の端で、なんとつかず口を押え、もういちど肩をおとして溜息をついた。