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きょうしゅうのしじん よさぶそん

郷愁の詩人 与謝蕪村

萩原 朔太郎

蕪村の俳句について「生理 1」1933(昭和8)年6月、春の部「生理 2」1933(昭和8)年8月、夏の部「生理 3」1933(昭和8)年11月、秋の部「生理 4」1934(昭和9)年5月、冬の部「生理 5」1935(昭和10)年2月、芭蕉私見(前半部分)「コギト 第四十二号」1935(昭和10)年11月、芭蕉私見(後半部分)「俳句研究 第三巻第一号」1936(昭和11)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,038 字 · 78 页

青空文庫

海手より日は照つけて山桜

畠うつや鳥さへ啼ぬ山蔭に

柴漬の沈みもやらで春の雨

しかしこの句の生命は、人間という言葉の奇警で力強い表現に存するのだから、某氏のように読むとすれば、平凡で力のない作に変ってしまう。蕪村自身の意味にしても、おそらくは「人間」という言葉において、句作の力点を求めたのであろう。

海手より日は照つけて山桜

海岸に近い南国の風景であり、光と色彩が強烈である。蕪村は関西の人であり、元来が南国人であるけれども、好んでまた南国の明るい風物を歌ったのは、彼自身が気質的にも南国人であったことを実証している。これに反して芭蕉は、好んで奥州や北国の暗い地方を旅行していた。芭蕉自身が、気質的に北国人であったからだろう。したがってまた、芭蕉は憂鬱で、蕪村は陽快。芭蕉は瞑想的で、蕪村は感覚的なのである。

畠うつや鳥さへ啼ぬ山蔭に

山村の白昼。山の傾斜に沿うた蔭の畠で、農夫が一人、黙々として畠を耕しているのである。空には白い雲が浮び、自然の悠々たる時劫の外、物音一つしない閑寂さである。

柴漬の沈みもやらで春の雨

春雨模糊とした海岸に、沈みもやらで柴漬が漂っている。次の句も類想であり、いずれ優劣のない佳句である。

よもすがら音なき雨や種俵