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きょうしゅうのしじん よさぶそん
郷愁の詩人 与謝蕪村
萩原 朔太郎
蕪村の俳句について「生理 1」1933(昭和8)年6月、春の部「生理 2」1933(昭和8)年8月、夏の部「生理 3」1933(昭和8)年11月、秋の部「生理 4」1934(昭和9)年5月、冬の部「生理 5」1935(昭和10)年2月、芭蕉私見(前半部分)「コギト 第四十二号」1935(昭和10)年11月、芭蕉私見(後半部分)「俳句研究 第三巻第一号」1936(昭和11)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,038 字 · 78 页
我を厭ふ隣家寒夜に鍋を鳴らす
玉霰漂母が鍋を乱れうつ
我を厭ふ隣家寒夜に鍋を鳴らす
霜に更ける冬の夜、遅く更けた燈火の下で書き物などしているのだろう。壁一重の隣家で、夜通し鍋など洗っている音がしている。寒夜の凍ったような感じと、主観の侘しい心境がよく現れている。「我れを厭ふ」というので、平常隣家と仲の良くないことが解り、日常生活の背景がくっきりと浮き出している。裏町の長屋住いをしていた蕪村。近所への人づきあいもせずに、夜遅くまで書物をしていた蕪村。冬の寒夜に火桶を抱えて、人生の寂寥と貧困とを悲しんでいた蕪村。さびしい孤独の詩人夜半亭蕪村の全貌が、目に見えるように浮んで来る俳句である。
玉霰漂母が鍋を乱れうつ
漂母は洗濯婆のことで、韓信が漂浪時代に食を乞うたという、支那の故事から引用している。しかし蕪村一流の技法によって、これを全く自己流の表現に用いている。即ち蕪村は、ここで裏長屋の女房を指しているのである。それを故意に漂母と言ったのは、一つはユーモラスのためであるが、一つは暗にその長屋住いで、蕪村が平常世話になってる、隣家の女房を意味するのだろう。
侘しい路地裏の長屋住い。家々の軒先には、台所のガラクタ道具が並べてある。